-----体験的スノーボード入門 安全で楽しいスノーボードのために-----
  
●スノーボードとの出会いと楽しさ
……ここでスキー場やショップの文句を言っても抽象的なので、相沢さんご自身の経験や、
  楽しみ方をお聞きしたい。スノーボードを始めた頃はどうだったのですか。
相沢 高校を卒業して今のJRに就職したんです。そのころは国鉄でした。それで長野
の諏訪にいたのですが、長野は海のない県なのでサーフィンに憧れを持っていた
んですよ。「サーフィンやってみてぇ〜」という感じで。それでサーフボードを
買って静岡にサーフィンしにいく。これが難しくて、なかなか上達しなかった。
そんなときに冬になる前に、サーフボードを買ったお店にスノーボードが飾って
あったんですよ。それが今みたいな滑走面やデッキ面もきれいな状態ではなくて、
合板のスノーボードだったんです。エッジも付いてませんでした。バインディ
ングも足をスポッといれるだけのようなもので、「これナンダ」ていったら
店の人がスノーボードのことを教えてくれたんです。その話を聞いてたら「これ
だったらできそう」とナメた考えでいました。
……以前にスキーの経験は?
相沢 もちろん高校まではスキーをやっていましたし、スキー部にも所属してノルディ
ック複合競技をやって大会にも出てました。それで卒業してからも少しずつ続け
てはいたんですけど、就職したことでトレーニングする時間が少なかったり、練
習できる環境もなかった。ほかにも酒を飲むことも覚えちゃったり、クルマやバ
イクに乗ったり、遊びたかったこともあって(笑)、大会に出ても成績がでなく
なってしまった。
 そんなときにスノーボードに出会ったような感じですね。これならできると安
易な考えで始めたんです。とりあえず、そのお店の人にスノーボードを借りて、
蓼科ピラタスというスキー場に一緒につれていってもらいました。でもすごい土
砂降りの雨で(笑)しかも斜面はコブコブのアイスバーン。それでもリフトに乗
ってとりあえずコースの上部まで行きました。滑る前にお店の人がスノーボード
の付け方だけは教えてくれたのですけど、そしたら「じゃ」と言って先に滑って
いってしまった(笑)。「待ってくれ」とは言ってみたけど、それこそあっと言
う間もなかった。もうひとり初めてスノーボードをやる友人が隣りにいたんです
けど、なんとかやってみるかと覚悟して立ち上がってみたんですけど、すぐ転び
ました。一メートルも進まずに転ぶ有り様でした。転びの連続でなんとか下まで
降りていったんですが、バックサイド(お尻)側に転んでいたので左のお尻に大
きな青アザができてしまった。そんな最悪の1日を過ごして、二度とやらないぞ
とそのときは真剣に思ったんですよ。
……ほかにそのスキー場でスノーボードを滑っている人はいたんですか。
相沢 仲間三人以外はいません。そのころはスノーボードをやっている人はほとんどい
なかった。だからスキー場もスノーボードを規制しているところが逆に少なくて、
ほとんどのスキー場で滑ることができました。でもやっぱり滑るときはコソコソ
として、スキー場側も黙認のような状態だった。滑っているとリフトに乗ってい
る人から「ナンだ、ありゃ?」という感じで、すごく注目されていましたね。
 とにかく本当に二度とやりたくないと思って帰ってきたんですけど、二日くら
いたってから、お店の人は滑ることができるのに自分は滑れなかったことがすご
く悔しくなってきて、しかもスノーボードは売っているのだから、やればできる
はずなんだなと思ったら、また悔しさがこみ上げてきて、当時九万八千円もする
スノーボードを買ってしまった(笑)。
で、買ったからにはモノにするぞと一生懸命練習しました。
 それで始めて二カ月目のときに全日本選手権があって、当時は誰でも出場でき
たんですよ。無謀にもそれに出場したんですよ(笑)、たった二カ月で。当時五
十人くらいしか参加していなかったんですけれど、四十六位くらいでした(笑)。
さんざんでしたね。でも競技に対する欲というか、参加することが好きだったの
で、また悔しいと同時に意欲が燃えてきて一生懸命練習しました。
 その次の年に国鉄を辞めて実家の白馬に帰りました。でもスノーボードをやり
たいという理由ではなく、実家の家業を継ぐためなんですけどね。それで夏は実
家の家業をやり、冬は雪が積もると仕事ができないのでスノーボードをやってま
した。二年目の冬はエコーバレーのスノーボードスクールでインストラクターを
経験させてもらい、レッスンをしながら練習をしていました。
その年にまた全日>本に出場したら今度は優勝することができたんです。これは
イケると思いました(笑)。
 それから完全にハマりました。そのかわり、ものすごく練習しました。熱血ド
ラマじゃないですけど、リフトの営業が終わってもコースを歩いて登ってゲレン
デ整備用の照明で練習もしました。
……なにか自分がうまくなるのが感じられるときって夢中になりますよね。初めから上手
  だったらそういう気持ちになれないですよね。スキーなんかは小さい頃からやってい
  れば知らないうちにうまくなっていたというのがあると思いますけど。ある程度年齢
  がいってからやったのが良かったようですね。
相沢 スノーボードを始めたときは本当にみじめでした。スキーだったら目をつぶって
も滑れるような斜面が滑れないんですから。初心者スキーヤーの気持ちがよくわ
かる、なんて友人と話をしてましたよ。悔しかったですね。ただ上達できたのは、
やっぱりスノーボードというスポーツに興味があったからだと思います。
……地元で、スノーボードをやっていた人は?
相沢 地元はいませんでしたね。けっこう白い目で見られていた。風当たりは冷たかっ
たですね。スノーボードという名前が定着するまでは、まわりから、まだ「サー
フスキー」やっているのかって言われるので「スノーボードだ」と言い返しまし
たけどね。ほかにも「スノーサーフィン」とか呼び方もさまざまでしたね。最近
ようやくスノーボードとして市民権が得られてきました。
……オリンピック種目になったというのも大きなことですね。
相沢 そうですね。だから…。否定はしたくないんですけど、最近の人は友達がやって
いるから俺もやる、ていうノリだけで、実際にやってみるとスグに滑れるはずな
いんですよね。それで、俺には難しすぎるからやらないぐらいにしか考えていな
い。ここ二、三年で爆発的にスノーボードの人口は増えているんですけど、その
ブームが来る前からスノーボードをやっている人達というのはスノーボードに対
して熱中してたんですよ。純粋にうまくなりたいという気持ちが、コツコツと練
習しているのを見ていると伝わってきた。今もそういうスノーボーダーはいます
けどね…。
 だけど多くの人はコワいですよ。スノーボードを買うにも、板とかブーツとか
なんでもいいと思っているんですよね。とりあえず板からウエアから小物からバ
カバカ買っていくんだけど、こだわりがなにもない。自分に合っている性能なの
かどうかも知らないで買っていることもある。
……全日本に初めて出場した頃というのは誰かに教わっていたのですか? またそういう
  指導をする人はいたんですか?
相沢 周りにはほとんどいなかった。全国的でも数える程度しかいなかったと思う。
ですから自分の練習は自分で考えながら滑っていた。大会前は友達とアレやコレ
やと試行錯誤して練習していた。結局ず〜っと教えてくれる人がいないままでし
た。今は指導する人はいっぱいいるし、おもしろい意見を言ってくれる人もいる
ので勉強になりますよね。
 これからスノーボードをやろうとしている人は、いい仲間やいい先生と出会っ
てほしいと思います。ボードについての知識もどん欲に身につけてほしい。こう
いうことがケガのない、たのしいスノーボードの原点になると思います。
……楽しい、貴重なお話どうもありがとうございました。