-----スノーボーダーはどこへ行く-----
  
●スキー場の対応と連盟の役割
 スキー場の規模が比較的大きく、多くのコースをもつスキー場は新し
いジャンルのウインタースポーツであるスノーボードにも対応しやすい
条件はあった。それでも、志賀高原や野沢温泉などの人気スキー場はあ
くまでもスキーヤーのためのスキー場という姿勢はくずさないできてい
る。スノーボーダーを一切受入れないスキー場は1998シーズンでもかな
りの数にのぼっているが、むしろボーダーを嫌うスキーヤーの支持は増
えているともいえるだろう。尾瀬岩鞍や草津温泉などスノーボーダーが
いないことを宣伝の材料にしているところもある。こうしたかたくなな、
あるいはしっかりとスキーヤーを守るという信念をもったスキー場があ
る一方、どうにも決めかねているスキー場もある。そこにはさまざまな
対応のしかたがあるようだ。
 まず考えたのは、ボーダーをいかに規制するかということだった。
規制することで安全対策をしようとしたわけだ。
 ボーダーの技術に応じてライセンスを発行するスキー場(丸沼高原、
黒姫高原、エコーバレー、おんたけなど)、入場者に誓約書を書かせるス
キー場(草津シズカ山、加山キャプテンコースト湯沢など)、スキー学校
に届け出が必要なスキー場(戸狩温泉など)、保険付き登録料を支払うス
キー場(斑尾高原など)、専用コースを設置するスキー場(霧ケ峰、水上
高原、白山一里野温泉など)、また岐阜県スキー場協会では県共通のボー
ディングパスを発行しているがすべてのスキー場で足並みが揃っている
わけではない。このように各スキー場での対応は異なるものの安全対策
の芽ばえともいえるだろう。まったくの初心者には無料でレッスンを行
なうスクールもある。靴を履くことからボードのバインディングの使い
方、歩き方、転び方などひと通りの基本事項を知ることは事故防止にお
おいに役立つはずだ。
 こうしたソフト面での役割はスキースクールが担うべきことだろう。
スキー場の設備等のハード面も当然改善が必要だ。ソフトとハードの両
面が解決できなければならないわけだ。しかし、なかにはそうした対策
を一切しないでスキー場をボーダーに全面解放しているスキー場もある。
客が多くはいればいいというわけだ。そうしてケガや事故に直面しては
じめて対策を考えはじめる。
 前記のスキー場のように、スノーボーダーは一切拒否というのは明確
ではあるが、それでは何も解決されないし、差別的ととらえられてもし
かたがない面もある。
 スノーボーダーを受け入れ始めたスキー場は、当初、リフトには乗れ
てもゴンドラはダメ、平日はすべってもいいが週末はダメ、このコース
はいいがこちらのコースはダメといったさまざまな条件をつけた。スキ
ーヤーとスノーボーダーの共存あるいは棲み分けはこうした暗中模索の
なかですすめられたといえるだろう。スキーヤーこそ一番大事なお客で
あり、ゲレンデにポールをたてるレース志向のスキーヤーやマナーをわ
きまえないスノーボーダーは歓迎されざる客であったといえるだろう。
 スキー場自体の規模が欧米に比べてきわめて小さいことも、自由に雪
の世界を楽しむにはムリがあるとも言える。しかし、じつはスキー場管
理者のスノーボードにたいする無知が最も大きな理由ではないかとおも
われる。たしかに新しいスポーツであり、管理者にスノーボードの知識
を持てといっても限界があったかもしれないが、そうした指導、教育、
アドバイスをする組織は以前からあるのだ。
 どうやってスキーヤーとボーダーが安全に楽しく共生できるかが一番
のテーマであることに変わりはない。
 このテーマにまず取り組まなくてはならないのが、全日本スキー連盟
(SAJ)であり日本スノーボード協会(JSBA)の役目といえるだろう。
こうした協会には教育部といったセクションがあり、スクールの指導者
を育てているが、スキー場に対する指導には強制力はなく、かならずし
も徹底した啓蒙はできないでいるのが現状ではないだろうか。
 日本のウインタースポーツを統括する組織のひとつとして、その指導
力に期待したいのだが疑問もある。
 例えば、一九九八年の「長野冬季オリンピック」に、スノーボード競
技が新しく加えられたことは、スキー産業の不振とは無関係ではなかっ
た。IOC(国際オリンピック委員会)会長のサラマンチは、1991年
6月15日長野オリンピックの開催が決定した後、スノーボードを競技
種目に加えるよう提言し、1995年12月5日には実施が決定された。
ウインタースポーツをより一層盛り上げるためにスキー業界はこぞって
賛成した。しかし、長野オリンピックのスノーボード代表選手をどうや
って選ぶのかを巡って、SAJとJSBAとの意見がなかなかかみ合わない。
ふたつの組織の齟齬が表面化したのもつい最近のことであった。
 また、アルペンスキーの滑降種目のスタート地点を巡るNAOC(長野
オリンピック冬季競技大会組織委員会)とFIS(国際スキー連盟)との確
執、そこにJOC(日本オリンピック委員会)も口を挟んでくる。こうし
た醜態を見るにつけ、これらの組織は日本の官僚機構を手本とする「面
子、建て前、手続き」を最も重んじる組織に思えてならない。
 スノーボードを日本のスキー場のなかでどう位置づけるかという考え
をもたず、スキー場のビジネス論理にすべてを任せてしまう組織であっ
てはならないだろう。
 安全で楽しい生涯スポーツとして、スキーやスノーボードの発展に総
力をあげて取り組んでほしい。